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D115

  

 

ハイデルベルグ大学試験規則集

ハイデルベルグ大学医学部ドクター学位授与規則

1985年9月4日

 

 

 

Pruefungsordnungen der Universitaet Heidelberg

Promotionsordnung der Universitaet Heidelberg

fuer die Medizinischen Fakultaeten

Vom 4. September 1985

 

 

 <<<訳語>>>

§1ドクター学位授与

(1)総合医学部、すなわち医学部(自然科学医学部、基礎医学部、臨床医学部T、臨床医学部U及びマンハイム臨床医学部からなる)は、医学博士(Dr.med.)または歯学博士(Dr.med.dent.)というアカデミックな資格を、ドクター学位授与能力または名誉という根拠に基づいて授与する。

(2)書面による学位授与は、新しい科学的知見を作り出したこと及び科学的仕事を自立して行える能力の証明についてなされるものである。

§2 学位授与

(1)学位授与は学位論文Dissertation(§8を見よ)と口頭試験の完了による。

(2)申請者は、医師(歯科医師)国家試験(§15、1項)合格後2年以上経過していなければ、口頭試験は免除される。その場合、定められた期日が医学部長への学位論文提出期限となる。正当な理由がある場合には、学位授与会議はこの期限が過ぎていても免除を与えることができる。

§3 学位授与を決定する組織

(1)学位授与手続に関する決定は、別の規定がなければ、個別の会議で扱われる。

(2)学位授与会議の委員は、学部評議会所属の教授と私講師Privatdozentである。学位授与会議の委員長は医学部長またはその代理人である。

(3)学位授与会議は、§9、3項の任務を担当する学位授与委員会を、学部の教授と私講師の中から選出することができる。任期は原則2年で、学部評議会委員の任期に合わせることとする。委員長は学部長または代理人である。

§4 一般許可条件

(1)以下の条件を満たしていれば、学位授与の申請は許可される。

  1. 医師免許規則による医師国家試験または歯科医師試験規則による歯科医師国家試験に合格している;
  2. ハイデルベルグ大学で最低2学期の医学(歯科医学)の勉学、またはハイデルベルグ大学の医学施設で1年間の従事。

(2)ハイデルベルグ大学で2学期以下の医学(歯科医学)の勉学、またはハイデルベルグ大学の医学施設で1年間以下の従事しかしていない応募者は、口頭試験を受験しなければならない(§12参照)。

(3)ハイデルベルグ大学医学部において、すでに人間科学博士Dr.sc.hum.に対する学位を請求している者、その学位を請求することが許可された者、あるいはその学位論文を作成中の者は、Dr.med. (Dr.med.dent.)の学位を請求をすることは許可されない。

(4)医師免許規則(歯科医師試験規則)による試験の合格の前でも、学位論文作成者として認められ、申請により学位授与の手続が許可される。§15 (1)は関係ない。この暫定的な許可は、もし申請者が医師試験または歯科医師試験に結果的に合格しなかったときには、無効となる。医師試験または歯科医師試験に合格することにより、許可は確定する。試験に合格したことは、該当する証明書を付して遅滞なく医学部長に届け出なければならない。

(5)学位授与の許可を求める申請は、学位論文に取り上げられたテーマにより、または学位論文が作成された研究施設により、あるいは指導者の所属によって、それぞれの該当する医学部に提出する。

(6)根拠のあるケース(§5参照)では、(1) 1 .による許可条件が免除される。§15(1)は関係ない。

§5 ドイツの試験を受けていない志願者

(1)基本法【憲法に相当する】の適用地域外で試験に合格した志願者は、基礎能力と大学課程がドイツの要求するところと同等とみなされる外国の医師(歯科医師)試験に合格している場合には、§4 (1)を変更して、学位授与手続を受けることができる。教育と外国の試験が同等であるかどうかの認定については、それぞれの学位授与会議が、ボンにある外国教育事情センターから総学部長が取り寄せた鑑定をふまえて決定する。

(2)総学部長またはマンハイム臨床医学部の学部長は、鑑定意見に従って、志願者が学位授与予備試験に合格することをもって学位授与手続を許可することができる。この試験は再受験が1回できる。学位授与予備試験は、医師(歯科医師)試験の全科目を包括できるが、これは条件に適ったものとする。試験は、総学部長またはマンハイム臨床医学部学部長によって医師(歯科医師)試験に該当する科の領域から試験適格者として指名された最低2名の試験官によって実施される。試験は口頭試験によって行われる。医学部所属者は、傍聴人になることを許される。試験委員会の委員長には、総学部の医学部長、またはマンハイム臨床医学部の学部長、またはこれら学部長によって指名された代理人がなる。

§6 許可願

(1)志願者は願書を書面で学部長に提出する。

(2)願書に含まれるものは:

  1. 履歴書;
  2. 医師(歯科医師)試験合格の証明書、および§4により許可を根拠づける書類。
  3. 学籍簿を外れてから6ヶ月以上、または医師(歯科医師)国家試験終了後3ヶ月以上経過したときは、警察の品行証明書;
  4. タイプ印書または印刷された学位論文、または例外として印刷発表された、または専門誌に受理され印刷されることになっている業績、後者の場合は志願者が筆頭著者であること;
  5. 志願者がすでに医学(歯科医学)の学位試験に不合格になったことがあるかどうかについての本人の宣言;
  6. 以下の内容の宣言:
    「私がハイデルベルグ大学...学部に学位授与のために提出する...というタイトルの業績は、...研究所/臨床部門/病院において、...の指導のもとに自ら行い、業績の執筆のさいに論文のなかに示した補助手段以外のものは利用しなかったことを、私は保証します。」;
  7. 学位授与会議の委員数に相当する数の学位論文の要約。

§7 許可の決定

(1)学位授与願については、条件を問題なく満たしていても、または満たしていなくても、学部長が決定を行う。

(2)条件を満たしていなかったり、または資料が不完全なときは、許可はされない。学位論文が医学部の科学的領域から外れているときは、許可されない。
州法により学位資格を剥奪することが適法とされるような事実が存在するときには、許可は拒否されなければならない。

(3)許可願の拒絶は申請者に書面によって通知され、理由が示される。

§8 学位論文

(1)学位論文は自立した科学的業績でなければならない。

(2)ドイツ語以外の言語での学位論文作成は、当該学位授与会議の事前の承諾を必要とする。

(3)それぞれの志願者の科学的寄与が明確な境界を持ち、共同作業が方法または作業の対象によって客観的に示されているならば、共同で作成された二人目の志願者の業績も学位論文になりうる。

(4)学位論文はその全部または一部が公表されていてもよい。

(5)論文が、ハイデルベルグ大学医学部のスタッフでない指導者の機関で完成されたときは、この機関の指導者の同意をつけて提出されなければならない。このような学位論文は、学位授与会議の委員によって紹介されなければならない。

(6)学位論文の巻頭頁に、仕事がどの機関において完成されたかを呈示しなければならない。

§9 学位論文の審査

(1)学位論文は教授および私講師の領域から医学部長によって指名された(最低)2名の報告者によって書面によって審査されなければならない。提出された学位論文の指導者が、第一報告者に指名される。その指導者が学部にすでに所属しなくなっていても、これは適用される。境界領域の学位論文の場合は、第二報告者は他学部に所属していてもよい。

(2)報告者は学位論文の受理または不受理を提言するが、学位論文を受理する場合には§13によってこれを評価する。報告者は学位論文の決定稿を作成することを命ずることができる。

(3)学位授与会議が§3 (3)により学位授与委員会を任命したときは、委員会は学位論文に関する審査を考慮し、また指導者の報告に基づいて、学位授与会議に提出するための審査提案を作成する。学位授与委員会の委員長は学位授与会議に報告をする。指導者あるいは他学部の第二報告者による報告は、学位授与委員会または学位授与会議が希望するときにのみ行われる。

§10 学位論文の公開と受理

(1)二人の報告者が学位論文の受理に賛成したときは、学位論文は審査を付けて最低2週間学部本部において閲覧に供する。これについて学位授与会議の委員は、学位論文のタイトル、申請者の氏名、報告者の氏名と評点を呈示し、学位論文の要旨を付けて報告をする。

(2)学位授与会議は学位論文の受理と評点の作成を行う。

(3)報告者または学位授与委員会が学位論文の受理または不受理について意見が不一致のとき、あるいは公開期限内に根拠ある異議が出されたときは、この学位論文は学位授与会議に議決を受けるために提出される。

§11 学位論文の不受理と再提出

(1)全委員が学位は不十分な能力であると評価したり、あるいは学位授与会議が同様な決定に至ったときは、学位論文は不受理となる。不受理は志願者に書面で伝えられる。

(2)学位論文が不受理となったときは、志願者はもう一度新規または改定された学位論文を提出することができる。

§12 口頭試験

(1)学位論文が受理されると、医学部長は§2 (1)により口頭試験の期日を決定し、学部の教授および私講師の領域から試験委員を決定する。§2 (2)は関係ない。

(2)試験委員会は3名の委員で構成されるが、そのなかの2名は教授でなければならない。第一報告者は通常は試験委員会の委員であるが、学部のメンバーでなくなっていても委員会には所属することができる。

(3)口頭試験は学位論文の学科と医学(歯学)の他の二つの科によって行われる。候補者は、その学位論文が作られた科について、とくに深い試験が実施される。口頭試験の時間は、原則として各科30分であるが、学位論文の科では45分である。

(4)各試験官は、その科の能力を§13 (2)による評点で評価する。1科目で不合格となれば、口頭試験全体が不合格となる。

(5)口頭試験が不合格のときは、応募者は早くて3ヶ月、遅くて6ヶ月の間に再試験が認められる。再々試験は認められない。手続はこれで終了する。

§13 学位論文審査の結果

(1)学位論文の成績評価は報告者によって提出される。

(2)次のような評価がつけられる:
秀にはsumma cum laude; 優にはmagna cum laude;良にはcum laude;可にはrite。中間の評点は付けられない。

(3)学位審査手続終了後に、学位授与会議は学位論文の評点、場合によっては3つの口頭試験の評点から算術平均を求め、総合評点を決定する。その場合、学位論文の評点は3倍し、口頭試験の評点は1倍として計算する。§2 (2)の場合には、学位論文の平均が総合評点となる。

(4)評点「秀summa cum laude」は、学位授与会議の出席者の4分の3が同意したときにのみ決定できる。この場合に最終決定を下すためには、ハイデルベルグ大学医学部に所属せず、また学位授与会議によって指名された2名の鑑定人による学位論文の鑑定と、総合医学部の出席メンバーの4分の3による決定が必要である。

§14 学位論文の公表

(1)学位論文が学位の業績として受理され、医師(歯科医師)国家試験も完了してから、候補者は総合医学部またはマンハイム臨床医学部の学部本部に、学位論文の規定数を無償で提出しなければならない。それに必要なことは:

  1. 印刷及びコピー印刷の場合には、規定数は通常50部である。
  2. 雑誌又は図書シリーズへの掲載、又は単行本として印刷の場合には、学部長は提出部数を通常20部に減少させることができる。
  3. 1.と2.による規定数の提出が学位申請者に過度の負担となるようなときは、規定数はは8部まで減らすことができる。

(2)さらに、候補者はタイプ用紙1ないし1頁半の学位論文の要約を全医学部又はマンハイム臨床医学部の学部本部に提出しなければならないが、これには学位を指導した担当者の署名が必要である。この要約は学位論文年鑑で発表される。これに対して候補者は雑費を支払わなくてはならない。印刷に関する義務はここまでである。

§15 Dr.med.(Dr.med.dent.)の授与

(1)候補者が医師免許規則(歯科医師試験規則)による医師(歯科医師)試験に合格し、または§5による条件を満たし、規定数の論文印刷物を提出すれば、博士の学位記の手渡しまたは送付によって博士の学位が授与される。学位記には学位論文のタイトルならびに評点が記入され、学位授与の日付として学位授与会議による決定の日が示される。ラテン語で記され、該当する学部の学部長によって署名される。

(2)学位記の受領によって博士の学位を標榜する権利が生ずる。

(3)いハイデルベルグ大学医学部で学位を授与された者は、希望すれば学位記発行の50年後に「金の博士学位記goldenes Doktordiplom」を発行することができる。

§16 Dr.med.(Dr.med.dent.)h.c.の授与

(1)医学または歯学、それらの境界領域における卓越した科学的業績に対して、各学部は総合学部及び大学評議会Senatの同意を得て、医学(歯学)の名誉博士(Dr.med.h.c., Dr.med.dent.h.c.)を授与することができる。

(2)授与に当たっては、教授及び私講師の中から最低2名の学部スタッフによる申請が必要である。学部評議会内における申請に関する票決当っては、学部評議会の教授と私講師だけが投票権を有する。申請については、出席委員の4分の3の多数決によって決定を行う。決定の準備のために、学部評議会はその中から2名の報告者を任命する。

(3)このために作成された学位記を渡すことによってDr.med.h.c. (Dr.med.dent.h.c.)の授与が行われるが、その中には学位を受ける者の業績が強調されていなければならない。

§17許可の取消し;学位授与業績の無効

(1)学位の交付前に、志願者が許可の条件を偽ったり、または許可の基本的条件を思い違いしていたことが明らかになった場合には、学位授与の許可は取消される。州法によって学位の剥奪が適法であるとされた場合も同様である。

(2)学位の交付の前に、志願者が学位の業績を偽わったことが明らかになった場合は、学位の業績の一部または総べてが無効であると宣告される;重い場合には、学位申請の許可が取消されることがある。

(3)(1)及び(2)の決定は、学位授与会議が行う。決定の前に、該当者は聴聞される。決定ではその根拠が示され、該当者には上訴の法的救済手続が教えられる。

§18学位の剥奪

(1)学位の剥奪は州法の規定に従う。該当する規定がなければ、学位授与会議が権限を持つ。

(2)決定の前に、該当者は聴聞される。決定ではその根拠が示され、該当者には上訴の法的救済手続が教えられる。

(3)(1)及び(2)の決定は、名誉学位の剥奪にも適用される。

§19発効

(1)この学位授与規則は、バーデン・ヴユルテンベルグ科学及び芸術省公報での発表により発効する。同時に1973年7月30日の学位授与規則(K.u.U.1973,S.1282)は失効する。

(2)発効の時点ですでに申請、またはまだ完結していない学位授与手続は、応募者の希望により従前の学位授与規則または本学位授与規則によって手続を進めることができる。

 

1985年11月18日の公報「科学及び芸術Wissenschaft und Kunst(W.u.K.)」、1466頁に発表された。

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訳者解説

ドイツの事情は日本とかなり異なるので、この学位授与規則を読む場合に、次の二つの事項を参考にされると理解しやすくなると思う。

  1. ドイツの医学部と学位審査の組織

ドイツの医学部は、一つの学部としては規模が大きくなりすぎたというような理由から、大学によって違いはあるが、1980年ころに以下に示すように、いくつかの学部に細分され、それぞれに学部長を持つようになった(私はこの辺の事情を正確に調べていないので、誤認があるかもしれないが)。

その結果従来のハイデルベルグ大学医学部は総合医学部となり、その下に

自然科学医学部
基礎医学部
臨床医学部I
臨床医学部U

の4学部と、地理的に離れたマンハイム市にある

マンハイム臨床医学部

という構成に改められた。それぞれの学部に学部長が存在する。

また、学位審査に関わる組織構成は上位から次のようになっている:

学部評議会
学位授与会議=委員長は学部長または代理、委員は教授と私講師
学位授与委員会=委員長は学部長または代理、委員は教授と私講師
報告者=教授と私講師から2名またはそれ以上

学位論文は通常医学部在学中に作成する。

2.読みやすく書いた解説「ドイツの医学博士とは」<m406>をこのホームページに掲載しているのでご覧下さい。

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翻訳 岡嶋道夫

e-mail: okajimamic@hi-ho.ne.jp

http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/

 

訳語

Abhandlung論文

Privatdozent私講師

Berichterstätter報告者

Promotion(ドクター)学位授与

Dekanat学部本部

Promotionskonferenz学位授与会議

Doktorand学位執筆(作成)中の者

Promotionsleistungドクター学位能力

Fakultätsrat学部評議会

Senat大学評議会

Fakultätsmitglied学部スタッフ

Stellvertreter代理人

Gesamtfakultät総合(医)学部

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