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M402

 

ドイツの介護保険(メモ)

東京医科歯科大学 名誉教授 岡嶋道夫

 追記20038月):ドイツの介護保険1995年に発足した。発足経緯当初様子はここに記したとおりである。しかし、現在はここに書いたものとは大分違っていて、当初黒字であった財政大変窮屈になってきた。また、介護保険労働社会省で生れたが、その後厚生相当する省の管轄に入ることになったが、この省は現在保健医療社会保障省という名称になっている。介護保険を扱う介護金庫独立した金庫ではなく、当初から公的医療保険を扱う疾病金庫所属するものとして出発している。筆者現在介護保険事情には疎いので、この方面情報別途入手して頂きたい。

 まえがき

この報告は、本年8月に開かれた日本医学協会夏季研究において、ドイツの介護保険について紹介するように求められて作成し、その後加筆したものです。筆者はそれまでわが国及びドイツの介護保険について深く調べたことがなかったので、急遽入手可能資料を集めてまとめましたが、同時にドイツの介護保険に対する基本的な考え方にも触れるように努めました。

また、ここに書かれたドイツのメディカルサービス日本ケアマネージャーとを比較されたり、ドイツの社会保険の3つの原則などにご注目いただけたらと思います。

このメモを作成した直後、ドイツで1967年から健康保険医として開業しておられる柴田三代医師が、日本医師雑誌120(6):905-912(1998915日号)に「ドイツの介護保険報告」を発表され、基本的なことを分りやすく解説しているので、是非ご覧下さい。私のこのメモとは重ならない内容となっています。

また、朝日新聞1998930日)には、ドイツ介護保険解説取材掲載されています。

感想やご意見がありましたら遠慮なくe-mailでお知らせ下さい。今後勉強参考にしたいと思います。なお、内容転載される場合事前にご連絡いただけると幸です。

1998年10月 10 日

e-mail: okajimamic@hi-ho.ne.jp

http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m402.htm

 

目次

現在までの経過概要

介護保険の基本

ドイツの社会保障の歴史

公的保険の種類と総所得に対する保険料率(1998)

社会扶助から介護保険へ

ドイツの社会保険の3つの原則

保険と公費負担

介護保険のスタートは平坦ではなかった

介護保険の前提条件

メディカル・サービス(MDK)の名称と任務

公的介護保険と民間介護保険:1997年中期の統計 I

民間介護保険の規則から

民間介護保険における介護等級の審査

公的介護保険と民間介護保険:1997年中期の統計 II

公的介護保険の収支(1996年)

総括

資料

 

現在までの経過概要

 ドイツの介護保険[1]は20年にわたる討議を経て、1994524日に公布され、199511日から施行されたが、実施概要以下の通りである。

·         1995年1月1日より保険保険率は所得に対して1.0%)の徴収が始まった。

·         1995年4月1日より在宅介護給付開始された。

·         1996年7月1日より施設介護給付開始され、保険率は1.7%に引上げられた。

 19979月にブリュー連邦労働社会大臣は、1年間施設介護給付が終った時点で、公的介護保険及び民間介護保険によって170万人給付を受けたが、財政の面では黒字計上し、内容的にも満足すべきものであると報告した。

 また、介護保険は3年毎に見直しをすることになっているので、実施後3年を経過した199712月から1998年にかけて総括が行われ、黒字処置など今後方針が示された。それによると、保険率の引下げや、給付濃厚にすることはしないで、今後在宅介護における現物給付割合増加予想されるので、それに対応させたいとのことである。

 19981以降推移については情報入手していない。

 訳語について:日本介護保険法やその解説に用いられている用語一致しない訳語をかなり使用しているが、制度定義微妙差異があるので、誤解が生じないように無理一致させることはしなかった。

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介護保険基本

高齢化の進む先進諸国において、介護システム構築は避けて通れない共通課題である。OECD社会保障担当大臣会議でも、介護問題加盟各国社会政策上の主要関心であることが表明されており、長期介護費用社会保険または他の公的財源でしか賄えないとの結論に達した」と述べられている[2]

 ドイツでは、1970年頃から要介護者の社会保障を目指した論議が行われてきたが、ブリュー連邦労働社会大臣は1982年の就任以来この介護保険成立努力した。ちなみに、ドイツでは医療保険管轄連邦厚生であるが、 介護保険管轄年金保険などを扱っている連邦労働社会省である。しかし、医療保険を扱っている疾病金庫は、介護保険介護金庫業務を行うことになった。これは筆者推測であるが、省庁の枠を超えた業務円滑推進できるのは、ドイツの基本(わが国の憲法相当する)と深い関係があるのかもしれない。【以下加筆しました】その後介護保険労働社会省から厚生相当する保健医療社会保障省に移管されました。

基本35 [司法職務及び災害援助]

1.    総ての連邦及び州の役所相互司法及び職務共助を行う。(筆者注:これには公法上の団体も含まれることになっている)

2.及び3.災害に関する規定

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ドイツ社会保障歴史

 ドイツの社会保障は、ビスマルクによる公的医療保険制度創設最初で、以後以下のような公的保険導入された。

1883年−公的医療保険

1884年−公的労災保険

1889年−障害老齢保険年金保険

1927年−失業保険

1994年−公的介護保険(第5番目社会保障制度として)

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公的保険種類と総所得に対する保険(1998)

医療保険

13-14%

疾病金庫によって率が異なる)

介護保険

1.7%

老齢年金保険

20.3%

失業保険

6.5%

労災保険

(ドイツ医師雑誌1998814日号)

100マルクの給料に対して

1995 1.46マルク

1996 1.42マルク

1997 1.40マルク

 

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社会扶助から介護保険

 要介護者に対しては、今日までしかるべき保障システム存在しなかった。存在していたのは、金銭的に困窮していることの証明と要介護本人収入財産投入依存し、家族費用負担を伴う社会扶助のみであった。要介護者の多くが職業生活を終えた後で、屈辱的なものとして受け止めていたこの状況はいまや克服された[3]。しかし現在では170万人の要介護者が介護を受けているが、以前とは事情一変し、その人たちは年金の中から介護保険保険を支払い、それに対して以前扶助給付とは違って、権利として介護給付を受けることになった。

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ドイツの社会保険の3つの原則

·         連帯Solidalitaet):病気の人と健康な人、若い人と年配の人、男と女、保険とその家族裕福な人と貧しい人が対等に扱われる。したがって、リスクを持っている人を不利に扱うことは絶対にない。介護保険では、世代間の契約という考え方が基本にある。今度制定された日本介護保険法でも、その第1条に「国民共同連帯理念に基づく」制度であると述べている。

·         自主管理Selbstverwaltung):これはドイツが自慢する方式であるが、日本では馴染みがない。法律枠組みを規定するだけで、実務直結した規約協定などは、その当事となる諸団体、つまりパートナたち(例えば医師保険協会疾病金庫病院協会給付を行う各種職員組織障害団体社会福祉事業団体、ホームの組織各種業界代表する組織など)共同作業によって作られ、かつ運営される。(この共同作業がうまくいかないときは、調停機関調整したり、行政決定することになるが、ドイツの場合このようなことには殆どならないらしい)。

·         補充性(Subsidiaritaet):これも日本では馴染みのない言葉と思われるが、ドイツの法律辞典(Creifelds)定義によれば、「国家及び社会哲学原則で、小さな社会単位では機能しないとき、より大きな社会単位にすると機能するようになる(連邦構成欧州共同社会保険など)」となっている。(以下書き換えました)日本介護保険ではこの点への配慮はどうなっているだろうか。

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保険公費負担

公的社会保障財源調達方法には、租税による公費負担と、保険保険によって賄われる社会保険方式とがある。医療についてみると、ヨーロッパ保険制度採用しているのはドイツ、フランス、スイス、オーストリアベルギーオランダで、その他の周辺諸国税金によって調達されている。816日に講演された岡本三教授によれば、日本介護保険サービス世界で8番目であるが、北欧イギリスの4ヵ国は税金、ドイツ、オランダオーストリアの3ヵ国は保険方式である。日本保険公費負担混合した独特財源調達方式採用する国となる。

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介護保険スタート平坦ではなかった[3]

介護保険スタートに当って種々な雑音が発せられ、決して平坦なものではなかった。そのような例を紹介すると:介護混乱が起るだろう、初年度から赤字になるだろう、とうようなことは各種メディアを通じて述べられた。極端意見としては、乳児には介護レベルVに相当する世話必要だから、健康子供にも介護保険適用せよ;子供の多い家族にも一律保険率は家族敵対的なものであるとする違憲訴訟;など。

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介護保険前提条件[3]

日常生活最低2つの活動毎日介護必要であること、時間的に90分かかること。

介護保険には、医師による診療訪問看護及び医学リハビリ急性)は含まない。それらは、従来通り医療保険管轄になる。

介護保険は、社会参加のための給付(例えば職業訓練としてのリハビリ)を含まない。それらは従来通り社会扶助管轄である。

介護保険給付は、種類及び額に制限があり、重度に応じて段階づけられている。

在宅介護及び部分施設介護場合家族及び隣人またはその他の非職業的な介護世話補完する、

完全施設介護場合、要介護者は介護関連する費用負担免除される。ただし、宿泊食事にかかる費用は要介護者の自己負担

給付種類介護手当介護現物給付休暇介護補助具、介護に当る人の年金保険

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メディカルサービス(MDK)の名称任務[2][3][4]

 ドイツの介護保険制度では、メディカルサービスが要介護審査介護度の判定を行い、きわめて重要任務を有している。これは、わが国のケアマネージャー府県設置される介護保険審査会の役割と同じと言えるが、担当者や業務のやり方をみると、両国の間に大きな違いがみられる。要介護介護度の認定は、介護保険円滑運営に大きな影響を及ぼすと思われるので、ドイツの状況を少し詳しく紹介することにする。

 【この段落は少し書き換えました】はじめに、用語説明する必要がある。ドイツの制度紹介する資料のなかでメディカルサービス、あるいは医療サービス翻訳されているのは、Medizinischer Dienst der Krankenversicherung最初の2つの単語英訳するとmedical serviceとなるからである。後の単語疾病保険、つまり、「疾病保険メディカルサービス」ということになるが、これは疾病金庫医学的に適切、かつ経済に適った給付を行えるようにするために、医学的に支援をする医師業務のことである。この場合サービスは、患者や要介護者に対するサービスではなく、金庫に対する医学支援意味するから、メディカルサービスという訳語より医学審査機関とした方が実際に即している。MDK公法上の組織である。

 介護保険では医師関与する領域は狭いが、要介護認定介護度の判定、また異議申立に対する再審メディカルサービスに属する医師重要任務である。審査に当たっては「介護金庫中央組織ガイドラインRichtlinien der Spitzenverbaende der Pflegekassen」が使用される。これは19976月に改訂され、精神領域への配慮充実し、メディカルサービス従事する医師の卒後及び生涯研修原則も含まれているという。

 一方日本ではこれに相当する業務は、ケアマネージャー府県に設けられる介護保険審査会が行うことになっており、ケアマネージャー資格医師だけでなく、歯科師、薬剤保健看護をはじめとして保健医療福祉分野法定資格を有する者に幅広く開かれている。

ドイツ介護保険法「第18条 要介護確定手続抜粋)」を紹介すると[2]

1.    介護金庫は、要介護前提条件が満たされているか、そして要介護のどの等級かを疾病保険メディカルサービス審査させなければならない。・・・

2.    メディカルサービス加入者をその住居において審査しなければならない。・・・

3.    メディカルサービス加入者が同意した場合加入者を治療中の医師、中でも家庭判定参加させなければならず、要介護判定重要疾病前歴並びに必要とする援助種類範囲及び期間に関する医師情報及び資料入手しなければならない。

4.    介護疾病金庫及び給付提供は、メディカルサービスに要介護判定必要資料提出し、情報提供しなければならない。

5.    メディカルサービス審査結果介護金庫報告しなければならず、リハビリ措置介護給付種類及び範囲並びに個別介護プランを提案しなければならない。要介護者が介護手当申請した場合在宅介護適切方法確保されているかについても態度決定対象となる。

6.    メディカルサービス責務は、介護専門要員及びその他の適切専門協力を得て、医師が引き受けなければならない。メディカルサービスメディカルサービスに属さない介護専門要員またはその他の適切専門に、その都度必要個人別のデータを伝達する権限を有する。

 メディカルサービスは、介護保険で初めて出現した職務ではなく、医療保険において以前から存在しているので、ドイツではそのような経験実績を有している(リハビリ療養などの必要家庭における患者介護必要などに関する審査が、数は少ないが医療保険の中で行われていた)。したがって、メディカルサービス詳細介護保険法ではなく、医療保険法律条文記述されていて、その任務組織審査助言病院での処置審査モデル、協同作業報告義務設置管理運営経理連邦内での調整規定されている。そこでドイツ厚生が出した小冊公的医療保険[4]で述べられているメディカルサービスに関する解説引用してみよう。

 「疾病金庫は、その任務を果たすためには、保険への医学給付のみならず、給付経済提供することに対して、医学専門知識必要とする。この任務を果たすためにメディカルサービス疾病金庫責任の中に加えられた。つまり、疾病金庫特定給付供与する前に、個々のケースにおいてメディカルサービス審査入手することが義務づけられる。その際に重要なのは:医師患者の間の信頼関係を損うことがあるかもしれないので、メディカルサービス医学処置まで介入してはならない。メディカルサービス診療を行っている医師共同作業をする。このような方法によって、個々の場合並びに医療保険一般医学課題において、医学的に必要なものと経済要請とが調和されることに貢献することになる。さらに、メディカルサービス医師病院との折衝など、その他の総ての課題において、疾病金庫助言する任務を有する。メディカルサービス医学専門知識によって、疾病金庫給付提供適格パートナとなる。」

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公的介護保険民間介護保険:1997年中期の統計 I [5][6]

 公的医療保険運営している疾病金庫が、公的介護保険介護金庫運営する。公的医療保険加入者(人口の約92%)は、すべて公的介護保険加入する義務がある。しかし、民間介護保険選択することもできる。一方民間医療保険加入者(人口の約7%)は、すべて民間介護保険加入する義務がある。所得の多い人だけでなく、官吏最近民営化された郵便鉄道職員なども、民間介護保険加入することになっている。

施設介護実施199671日)から1年経過した1997年中期の状況をみると、公的及び民間介護保険給付を受けている要介護者数は170万人である。

在宅領域は約126万人

介護等級

人数

月額

T

532,000

45.6%

 

 

400マルクの介護手当または

750マルクまでの現物給付

U

490,000

42.1%

 

 

800マルクの介護手当または

,800マルクまでの現物給付

V

143,000

12.3%

 

 

1,300マルクの介護手当または

2,800マルクまでの現物給付

この他に民間介護保険給付を受けている者が約10万人存在する。

等級Vで、通常程度を超える介護費用がかかる場合(例えばガンの末期頻回援助必要)には、3750マルクまで支出できるが、これは等級Vの要介護者の3%までに制限されている。

 

施設領域は約43万人

介護等級

人数

月額

T

135,000

31.5%

2,000マルク

U

180,000

41.9%

2,500マルク

V

115,000

26.6%

2,800マルク

この中に民間介護保険を受けている者が約4万人含まれる。

例えばガン末期通常程度を超える集中介護費用必要となる場合などには、3300マルクまで支出できるが、等級Vの要介護者の5%を超えないようにする。

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民間介護保険規則から

 民間介護保険においても、公的保険のように、保険がリスクなどにより不利に扱われることのないよう配慮されている。

110民間医療保険に対する規則 (1) 抜粋

·         加入者の既往疾患によって除外を行わないこと。

·         既に要介護になっている者を除外しないこと。

·         公的介護保険より長い待機期間を設けないこと。

·         加入者の性別及び健康状態によって保険格差を設けないこと。

·         公務などの場合には、保険公的介護保険最高額を上回らないこと、 ...。

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民間介護保険における介護等級審査[7] 

介護保険法の発効以後審査実際公的介護金庫民間介護保険との間で類似してきている。民間医療保険について次のような資料入手したので紹介する。 Medicproof:これは公的介護保険メディカルサービス相当するもので、982人の審査員がおり、総て開業副業として行っている。審査員は通常書式による審査家庭訪問を含む)では定額として 160マルクを受け取る。書式にこだわらない再審では、140人の医師 400マルクの定額担当する。

民間介護保険におけるMedicproofによる審査結果[7]

在宅介護

介護等級

19961-12

19971-6

必要なし

8636

15.6%

3605

16.5%

T

19509

35.2%

8234

37.6%

U

18973

34.2%

7170

32.7%

V

8335

15.0%

2896

13.2%

合計

55523

100.0%

21905

100.0%

 

完全施設介護

介護等級

19961-12

19971-6

必要なし

3732

10.8%

718

9.7%

T

6085

17.5%

1601

21.5%

U

11985

34.6%

3122

42.1%

V

12860

37.1%

1982

26.7%

合計

34662

100.0%

7433

100.0%

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公的介護保険民間介護保険:1997年中期の統計 II [6]

 

公的介護保険

民間介護保険

在宅

施設

在宅

施設

80才以上

50%

70%

50%

75%

女性割合

65%

80%

58%

78%

 

介護保険財政 (億マルク)

 

公的介護保険

民間介護保険

 

収入

支出

収入

支出

1995

164.4

97.2

25.3

20.0

1996

234.5

212.4

35.7

34.7

1997年半ばまで

151.3

144.3

 

 

1996年の公的介護保険支出のうち給付への支出額は200.5億マルク(95%)。

残りの5%管理

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公的介護保険収支1996[8]

1996年は1月から6月までは在宅介護だけ行われ、施設介護は7月から始まった。したがって、施設介護支出した額はそれだけ少なくなっている。1997年の資料はまだ入手していない。

収入

235.4億マルク

支出

212.6億マルク

余剰

22.8億マルク

1995年からの繰越余剰55.8億マルク

余剰合計  78.6億マルク

給付への支出額は200.5億マルク;その内訳

介護手当

43.3%

完全施設介護

26.3%

介護現物給付

15.1%

介護人への社会保障

9.0%

介護器具技術援助

3.8%

介護休暇

1.3%

その他

1.2%

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総括 [5] [6] [9]

 ブリュー労働社会相によれば[5]介護保険財政状態は素晴らしい。1996年末には約79億マルクの安全余剰金が介護金庫に残ったが、これは法律で残すように定められた額よりずっと多かった。理由の一つは、保険19951月から徴収され、在宅介護同年4月になってから開始されたという時間的なズレによる。他の理由としては、介護者の社会保障援助する支出予想を下回ったこと、及び要介護者が、現物給付より安くつく介護手当を、予期したより多く選んだことによる。民間介護保険も含めて170万人給付を受けたが、4分の1が施設居住者、4分の3が在宅であった。

 介護保険法では3年ごとに見直しをすることになっているが、ブリュー労相199712月末に、3年間介護保険総括し、介護保険は要介護者への給付給付構造においてポジティブ結果となっていると述べている[7]目下のところ財政黒字になっているが、保険率を下げたり、給付を濃くすることは考えていない。

 約170万人の要介護者のうち、4分の3は在宅介護月額1300マルクまでの介護手当または3750マルクまでの現物給付、4分の1は施設月額20003300マルクの給付を受けた。この他に名誉ボランティア)として介護に当る家族には年金保険保険を支払った(介護者の社会保障改善するため)。

 このようにして1995年から1997年中間までに、介護保険合計450億マルクを支払った。

1996年末余剰金は89億マルクに達した。予定していたのは40億マルクなので、保険率引下げを促す意見もあった。しかし、ブリュー労相によると、これはコスト上昇から防衛するクッションにしなければならないとしている。理由は、在宅領域では介護手当に替って、より高価につく現物給付選択する要介護者が増えてきていること、また人口統計的にみて、最高額の給付要求する重症の要介護者が将来増えていくことが考えられるからである。

政府は、社会扶助財政負担軽減し、社会扶助を受ける人数減少させるという公的介護保険目的達成されたと確信し、1997年には、公的介護保険によって、社会扶助104億マルク軽減されると考えている。

 介護インフラストラクチャ改善され、在宅デイケアショートステイ施設では、需要見合った提供ができるようになってきた。1991年には100デイサービス及び223ショートステイ施設しかなかったが、現在6,000以上施設存在する。1992年には約4,000在宅介護サービスしかなかったが、現在11,000サービスが働いている。

 介護インフラストラクチャ改善介護に当る家族支援は、施設ホーム宿泊所より在宅でのケアを優先させることに貢献した。ホーム宿泊所の数は減少し、いくつかのホームでは何年もなかった空き介護ベッドが存在するようになった。フルタイム正規職員は、1993年の214,300人が1996年には289,300人となり、75,000増加した。

 ハンブル大学は、家庭における介護保険受入れについてのアンケート調査を行ったが、質問を受けた人の約80%は、現在介護状況は総じて順調であるように思われるとの見解を示した。介護保険介護する家族知人存在価値があるという認識を与えた、という考えを67%の人が述べた。質問を受けた75%が、メディカルサービス機関審査結果同意したという。

このように、ドイツの介護保険約束したことを守り、要介護者の期待大幅に満たして定着した、とブリュー労相は述べている。

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資料

1.    Gesetz zur sozialen Absicherung des Risikos der Pflegebeduerftigkeit (Pflege-Versicherungsgesetz - PflegeVG) vom 26.Mai 1994.

2.    健康保険組合連合会:ドイツ介護保険法:概要法文199412

3.    カール・ユンゲ事務次官:ドイツにおける介護保険基本問題および今後課題発展、日独シンポジウム基調講演平成7111日、東京児童会館ホール。

4.    岡嶋道夫編訳:ドイツの公的医療保険医師職業規則、信山社、1996

5.    ブリュー労働社会大臣介護保険信頼できる援助である、新しい保険導入後2年半中間決算199793日、インターネット集録

6.    ドイツ連邦議会Hilfe fuer 1.7 Millionen Pflegebeduerftige, 1998210日。

7.    H. Clade:ドイツ医師雑誌Deutsches Aerzteblatt):19971010日号, A2630-2631

8.    ドイツ医師雑誌DA):1998123日号,雑報46

9.    S. Rieser:ドイツ医師雑誌DA):1998116日号, A70

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