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資料7

トーマス野口先生からの手紙(2000年秋)

先日米国のトーマス野口先生と親交のある日本医大法医学の黒須三恵先生に、医療事故死の扱いについて尋ねたところ、黒須先生は野口先生に連絡され、以下のようなファックスが野口先生から黒須先生に送られてきました。お許しを得ているので、その内容を紹介します。野口先生はロサンゼルスの監察医事務所(Medical Examiners Office)の所長をされたことがあり、マリリン・モンローの解剖などを手がけておられます。日本を離れてから久しいため、ワープロと日本語におぼつかないところが多少あり、不明瞭な記述もありますが、アメリカの実情を伝える記録として参考になると思います。(岡嶋道夫記、mi-netにも載せました)

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以下がトーマス野口先生から頂いた手紙(Fax)の内容です。

 

医療過誤についてのアメリカでの対策:

ご存知と思いますが医療過誤問題は197085までに大問題となり、アメリカでは2種類に分けます。あ)不注意により、死亡並びに損傷を受けた例をMedical Malpracticeと云い、い)結果が患者又は家族の期待にそわないと訴えられる例があり、落ち度がなくても誤解からおこるなで(?)、Medical Liabilityと云います。.....

 

特にリスクの高い専門家など、たとえば整形外科、産婦人科の先生は保険掛け金も年間10万ドル以上になり、保険があるから訴えられると考えた医師で保険なしで開業したのもありました(197080年代)。

 

原因並びに対策に対し見解:

1) 少数の医師が医療過誤を何回も繰り返している

 

2) オープンシステムなので、医師が訴えられたら病院も訴えられるため、病院側は医師の資格、Credentialingを強化し、

 

3) 医師免許証を扱うMed. Board of CaliforniaMBC)の委員会は昔は医師だけで構成されたが、半分以上の委員たちは一般の人をGovernorが任命し医師をかばわなくなりました。Impaired physician(アル中、麻薬常用者)や...している医師に対して医師免許を厳しく査定し、過誤らしいときはInvestigatorsを送り医療について適当さを調べます。毎年200人位の医師が免許証について問題を起こし、その名前は発表されます。昔のように問題を起こした所から出て、他所で開業できません。

 

4) 連邦政府はNational Medical Practice Data Bankを作り、一般の人に医師の資格を調べられるようにしました。

 

5) この10年間、カリフォルニア州のCoroner's Officeは死亡例からみて、医師のgross negligenceによる場合はMBCに報告の義務があります。そのため、検視局は数多くのコンサルタントを起用して、大変です。

 

6) 免許証について、問題の医師は免許証の一時停止また、大学などでの再教育と判定を下し、指導します。

 

7) LAC+USC MCでは1985年から少しずつpeer reviewを入れ、私が1990年からCredentials and Peer Review Committeeの委員長に選ばれ、全部の病院で患者の治療と診断に携わる医師は教授でも医局員医師でも、この委員会が医療に携わる現在の元にして(このところ意味不明)、competent?か書類を調べます。研究ではありません。あまり研究だけを中心にしていると、過誤がおこります。

 

8) Peer Review(医師の記録、または、法医学者の解剖書や鑑定書などを、同格の専門家が読み、あ)必要な事項をまちがえなく、書いてあるか?時間内に作成したか?記録など間違えないか?仕事の2%はpeer reviewをしてもらわないと、病院ないのcommitteeを通過できません。これは警察が調べる様ののでなく、啓蒙しあう精神でここで作った資料は法廷でも証拠としてみとめません。これをしないと隠すようになります。

 

9) 医療過誤予防には日本の様に警察でしらべ、検察庁にもってゆく独逸法と違い、医師医療については警察では関連いたしません。アメリカでは免許取り締まりを中心として、資格、再教育、免許証一時停止、また医療に携わる医師には2年ごと再交付制度を長年とっております。専門の資格を持っている医師も専門の資格免許証を10年ごと再交付を考えています。

 

10) このため医療過誤が非常に少なくなりgross negligenceによる不注意によるものは医療にすぐ隠さず(意味不明)改善法をかんがえ、患者さんにすぐ話をし始めます。これがRisk Managementのはじまりです。この約30年間続いています。再教育出来ない医師は医療に携わらなくなりましたので、malpractice crisisはおわりました。

 

11) 文献について:監督官庁は各州にあり、Medical Board of Californiaで、加州Business and Professional Codeにあります。国会図書館にゆきますと、Indexがあるとおもいますが、

 

アメリカと日本の医療過誤についての対策が警察でやるか、医師の指導によるかの問題かと思います。早くpeer review的のシステムが出来れば、予防になります。罰だけでは、隠すようになり、医療過誤は絶えないかもしれません。

 

以上の通りです。

 

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付記:米国の病院はいずれも、分厚いMedical Staff Bylaws(内規)を作って医療従事者に義務づけている。私の手元にあるあまり大きくない病院のBylawsを見ると、peer reviewは病院全体という形ではなく、内科、外科、小児科、麻酔科、病理などのような各部局において実施するように義務づけている。Peer reviewは定期的な病院審査のときの重要な審査対象になるので、これを怠ることはできない(岡嶋道夫記)。