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M423

ドイツ:開業医の診断とICD-10(付:保険医協会)

頻度の高い50の疾患名

 

ドイツの医師会のNewsletterを見ていたところ、開業医が保険診療のさいに提出する疾患名(ICD-10)を頻度順に並べたリポート(2005年5月)が発表されたことを知りました。筆者はこの方面の事情に疎いのですが、わが国では疾病や死因の分類が不徹底で、ICD-10国際疾病分類10版をもっと勉強しなければならないと聞いているので、この紹介が多少なりともご参考になれば幸いと思います。

2005年7月20日

岡嶋道夫

 

ICD-10分類記号で高い頻度を示す50の疾患−専門別

ノルトライン保険医協会

中央研究機関の決算データ保管部調査委員会

 

Die 50 haeufigsten ICD-10-Schluesselnummern nach Fachgruppen

ADT-Panel des Zentralinstituts in der Kassenaerztlichen Vereinigung Nordrhein, 1.-4. Quartel 2004

 

このリポートは、ノルトライン州の保険医協会・中央研究機関の決算データ保管部調査委員会が、2004年度のデータをまとめたもので、下記のサイトに掲載されています。

http://212.63.148.162/themen/gesund/koch/down/ICD-10-2004%20(50).pdf

 

開業医は診療報酬請求を保険医協会に提出しますが、それに記載されている疾患名(ICD-10による)を各診療科別(専門医別)に分け、それぞれの科の中で頻度の高いものから50位までを順に並べたリストです。

ドイツ語で書かれていますが、疾患名はICD-10の3桁の分類ですから、日本語に翻訳された下記のサイトを利用すれば問題はありません。

http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/ICD10/

 

 ドイツの開業医は下記のように14の専門に分類されていますが、今回のリポートでは4ページ以下に専門別の結果が示されています。

 

開業医の専門別分類(ドイツ語のアルファベット順)

1.   家庭医(一般医学)

2.   麻酔

3.   眼科

4.   外科

5.   婦人科

6.   耳鼻咽喉科

7.   皮膚科

8.   内科(内科専門医で専門領域を標榜)

9.   内科(内科専門医であるが家庭医業務を標榜)

10. 小児科

11. 神経科

12. 整形外科

13. 放射線科

14. 泌尿器科

 

調査は家庭医(一般医学)は60診療所、約70,000人の患者、その他の専門ではいずれも30診療所、合計約530,000人の患者です。しかし、眼科は25位までとなっており、麻酔科と放射線科は掲載されていません。

 

 次にそれぞれの専門について1位から3位(または5位)までの疾患名を挙げてみます。

家庭医(一般医学)

[ 1]  I10  本態性高血圧

[ 2]  E78  リポたんぱく<蛋白>代謝障害およびその他の脂(質)血症

[ 3]  M54  背部痛

[ 4]  I25  慢性虚血性心疾患

[ 5]  E11  インスリン非依存性糖尿病

 

眼科

[ 1]  H52 屈折および調節の障害

[ 2]  H50 その他の斜視

[ 3]  H40 緑内障

 

外科 (専門領域サブスペシャルティを持たない)

[ 1]  M54 背部痛

[ 2]  I84 痔核

[ 3]  T14  部位不明の損傷

 

婦人科

[ 1]  Z30  避妊管理

[ 2]  N89  腟のその他の非炎症性障害

[ 3]  Z12  新生物の特殊スクリーニング検査

 

耳鼻咽喉科

[ 1]  H61  その他の外耳障害

[ 2]  H91  その他の難聴

[ 3]  J01  急性副鼻腔炎

 

皮膚科

[ 1]  L30  その他の皮膚炎

[ 2]  D22  メラニン細胞性母斑の良性新生物

[ 3]  B35  皮膚糸状菌症

 

内科(内科専門医で専門領域を標榜)

[ 1]  I10  本態性高血圧

[ 2]  E78  リポたんぱく<蛋白>代謝障害およびその他の脂(質)血症

[ 3]  I25  慢性虚血性心疾患

[ 4]  K29  胃炎および十二指腸炎

[ 5]  E04  その他の非中毒性甲状腺腫

 

内科(内科専門医であるが家庭医業務を標榜)

[ 1]  I10  本態性高血圧

[ 2]  E78  リポたんぱく蛋白代謝障害およびその他の脂血症

[ 3]  I25  慢性虚血性心疾患

[ 4]  E11  インスリン非依存性糖尿病

[ 5]  M54  背部痛

 

小児科

[ 1]  J06  多部位および部位不明の急性上気道感染症

[ 2]  Z00  愁訴がないまたは診断名の記載がない者の一般検査および診査

[ 3]  J03  急性扁桃炎

[ 4]  H66  化膿性および詳細不明の中耳炎

[ 5]  J20  急性気管支炎

 

神経科

[ 1]  F32  うつ病エピソード

[ 2]  F45  身体表現性障害

[ 3]  G56  上肢の単ニューロパチ<シ>ー

[ 4]  G40  てんかん

[ 5]  F41  その他の不安障害

 

整形外科(専門領域サブスペシャルティを持たない)

[ 1]  M54  背部痛

[ 2]  M17  膝関節症[膝の関節症]

[ 3]  Q66  足の先天(性)変形

 

泌尿器科

[ 1]  N40  前立腺肥大(症)

[ 2]  N39  尿路系のその他の障害

[ 3]  C61  前立腺の悪性新生物

 

この調査に当って、同じ診療所であれば全期間に亘っての追跡が可能であったが、患者が診療所を替えているときは技術的に追跡ができなかったとのことです。

 

ご参考までに

州保険医協会について

 

なみに、このリポートを作成したノルトライン州はドイツの中でも医療の質の改善にもっとも積極的に取り組んでいる州の一つです。

ドイツでは各州共通ですが、医師の組織としては州医師会と州保険医協会とがあります。両者は何れも公法上の団体で、法律によって定められた数多くの任務を果たしています。州保険医協会の上には連邦保険医協会が存在します。

保険医協会という言葉は保険医の私的な利益団体のような印象を与えるかもしれませんが、ドイツの保険医協会は保険医の共通の利益を守る責任を有するだけでなく、保険医が一定の水準以上の医療を経済に見合った形で給付することを保証する責任を有し、もし義務違反があれば懲戒処分をすることも規定されています。

ドイツでは開業医の定員制が実施されているので、医師が開業して公的医療保険の患者の診療を行うときは、保険医協会は卒後研修などを調べ、保険医業務を行う能力を確認した上で認可を下します。その場合、その地域の定員に空席がなければなりませんが、このようにして認可を受けた医師を保険医ではなく「契約医」と称しています。

保険医協会の古くからの本来的任務は医療報酬の配分を行うことでした。ドイツでは日本の支払制度とは異なり、契約医は四半期ごとに診療報酬の請求を保険医協会に提出します。保険医協会と疾病金庫(健康保険組合)の間で取り決めがあり、保険医協会は適正な診療であるかどうかを審査し、不適切なものを排除してから疾病金庫に送ります。疾病金庫もその立場で審査し、決定した報酬は一括して保険医協会に渡します。保険医協会は定められたルールに従ってそれぞれの契約医への配分額を決定して渡します。その場合、平均を一定割合以上超えている請求はカットするなど、各種の予め定められたルールが適用され、医師の間、専門の間の公平性が守られるように努めています。量の限られた一つの鍋を皆がもっとも納得できる方法で分かち合うという古くからの伝統的精神に基づくものです。したがって、一つの診療行為に対する点数が定められていても、実際に受領する報酬は点数どおりになりません。

診療報酬請求書はドイツでは保険医協会に提出され、審査のときに疾病金庫に渡されますが、その後保険医協会がその所有物として保管します。したがって、上記リポートにあるような調査分析は、患者と医師の匿名性に配慮して実施することが可能となるわけです。

ところで、州医師会を運営する費用は会員の会費ですが、保険医協会を運営する費用には、保険医協会が各医師に報酬を配分するとき、一定のパーセントで天引き徴収したものが当てられています。この費用は協会内の運営だけでなく、疾病金庫や医師会など、他の組織と共同で行う委員会の費用の分担金、さらに医療の質を保証するための各種調査研究の活動にも使用されます。このような委員会活動では、医師はボランティア(無報酬)が原則です。

州保険医協会は実際の医療の質を保証する努力をしています。一方州医師会は卒後研修や医師の倫理の面で医師の質を向上させる活動を受け持っています。そして、救急業務や生涯研修では、医師会と保険医協会の共同作業が行われています(本ホームページで紹介されているように)。

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