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英国から見たドイツの医療制度

 

ドイツ医師会雑誌は多数の海外ニュースを紹介していますが、2002年7月18日のニュースに「英国:ドイツの保健医療制度は手本」というのがあったので、紹介してみます。

ご承知のように、英国National Health Service(NHS)は医療制度の一つの見本とされてきましたが、最近は手術や精密検査を受けるのに、半年、一年と待たされる患者が出てきて大問題となっています。そして、とうとう今年(2002年)の1月ころからは、英国の保健省の承認のもとに、多数の患者がドーバー海峡を超えてフランスやドイツに渡り、手術を受けるようになりました。以下のニュースはこの事実と関係があります。

 

ロンドン発: 英国の対立野党である保守党の保健医療担当スポークスマンであるDr.Fox(NHSの医師として長年ロンドンで開業していた)は、ベルリンの病院と診療所を視察して帰国し、次のように語った。「ドイツの保健医療システムは英国よりも良い。ドイツの患者は、英国の人よりの医療保険料を多く支払っているが、治療と医薬品がいつでも得られることを知っている。これに反して英国の国営サービスはまやかしものである。その理由は、病院や診療所への支出は政府が随時決定できるからである。たとえば、交通省のお金が足りなくなったとき、元来保健医療に使う予定であったお金の一部をそちらに流用することができるからである。保守党はドイツを見本としたNHSの改革を選挙プログラムに盛り込むであろう。目標はNHSの一極集中を廃し、政策から切り離すことである。そして将来、病院と疾病保険(国営と私的)が、英国の保健医療システムの中で患者のために競い合うようにすべきである。」英国の各新聞は、その政治家のドイツ訪問とドイツの保健医療システムに大変ポジティブな報道をした。

 

以上のような内容です。そこで考えてみました。ドイツの医療は保険だけで行っています。税金を使うのは社会扶助と難民、病院の建物だけで、医療従事者などの費用は医療保険です。保険ですから、税金と違って、他の目的に流用されることはありません。医療保険の保険料として徴収したお金は全て保健医療の目的に使われるわけで、医療費は何時も安定を保つことができます。税金であったら、たとえば、政治家や議会が他の領域を充実させようと考えれば、そちらに回されることもありうるわけです。

 

日本の医療は保険を基調としていますが、税金も次第に多くなってきています。足りなくなったら税金投入を増やせ、といった考え方が多分にあると思います。今は健康や福祉というと錦の御旗的なところがありますが、上記の英国人の立場でみると、当てにしていた税金部分が将来減らされるということもありうるので、その覚悟をしておく必要があるかもしれません。

 

ヨーロッパの医療は、保険の国と税金の国に分かれていますが、一寸面白く感じたので書いてみました。

岡嶋道夫