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D118

ドイツ医師のための職業規則1970年)

Berufsordnung für die deutschen Ärzte (1970)

 

ドイツ医師のための職業規則1993年版D1011997年版D119掲載しました

 

以下誓約は総ての医師適用される:

『私が医師という身分採用されるに当り、私の生命人間奉仕に捧げることを私は厳粛誓約いたします。

私は私の職業良心尊厳をもって実行いたします。私の患者健康維持し、回復させることは私の行為最高のおきてとします。

私は総ての私に委託された秘密を守ります。

私は私の全力をもって医師としての職業名誉品位ある伝統維持し、私の医師としての義務宗教国籍民族さらに派閥政策または社会立場によって影響されることはいたしません。

私はあらゆる人の生命に対して畏敬の念を持ち、たとえ脅迫を受けたとしても人間の掟に反することなく私の医術行使します。

私は私の師及び同僚当然なすべき尊敬を表します。私はこれらのすべてを私の名誉にかけて厳粛約束いたします。』

 


§1 職務従事

(1) 医師個人および国民全体健康奉仕する。医業営業ではない。医業はその本質からみて自由である。医業は、医師自己良心医師としての道徳のおきてに従ってその責務を果すことを要求している。

自由定義日本語感と異なるので、「D101ドイツ医師のための職業規則(1993)」の訳者注、または「ドイツ医師のための職業規則(1997)」の訳者注2参照のこと】

 

(2) 医師責務生命維持し、健康を守り回復させ、苦痛を和らげることにある。医師人道戒律に従って医業を行う。医師はその責務と相容れない、または従うことに責任をとれないような主義を認めてはならないし、そのような規定指示容認してはならない。

(3) 医師はその職務良心に行い、職務内および職務外において、医業要求する尊敬信頼にふさわしい行動を示さなければならない。

(3 a) 医師医業関連した規則を学び、それに注意を払う義務がある。

(3 b) 医師場所を転々と移しながら医業を行ってはならない。医師個人に対する医学相談あるいは治療手紙新聞雑誌、テレビ、ラジオを通じて行ってはならない。

(4) 医師はその職務を行うに当たって基本的には自由である。医師自分患者との間に必要信頼関係存在しないと確信したときなどには、診療拒否することができる。救急のさいの義務はこれに該当しない。

 

§2 守秘義務

(1) 医師は、医師であるがゆえに打明けられたり、知らされた事柄について秘密を守らなければならない。これには患者書面報告患者に関する記録、X線写真、その他の検査記録も含まれる。

(2) 医師自分家族に対しても秘密を守るように注意する義務がある。

(3) 医師は、その補助、および医療業務従事するための見習のものに対して秘密保持法的義務を教え、これを書面として残しておかなければならない。

(4) 医師守秘義務から解かれたとき、あるいは公表することがより高い法益を守るために必要とされる場合には、公表する権利が与えられるが、義務づけられたものではない。後者裁判手続において供述することにも適応される。

(5) 原文削除

(6) 医師第三から公的または私的委託されて従事する場合医師によって確認された事項がどの範囲第三報告されることになっているかについて、被検者検査処置を受ける前に知らなかったり、知らされいなかった場合には、医師には秘密を守る義務がある。

(7) 数名の医師同時または相次いで同一患者を診た場合には、患者が特に指定しない限り、医師たち相互の間に守秘義務はない。

(8) 科学研究および教育目的のためには、患者正当利益を損わないか、あるいは患者の明らかな同意がある限り、守秘義務該当する事実所見発表して差し支えない。

 

§3 胎児生命維持

 医師胎児生命維持することを原則として義務づけられている。妊娠中絶法律の定めるところによる。

 

§4 避妊手術

 避妊手術は、医学的、遺伝または重大社会理由により適応とされた場合には許される。

 

§5 生涯教育

 医師職業に関して自らを生涯教育することが義務づけられている。

 

§6 診療実際

(1) 個人として医業を行うことは開業と結びつく。開業は§25 該当する診療看板によって一般に示すことができる。医師開業場所時間、およびあらゆる変更遅滞なく医師報告しなければならない。

(2) 医師は数カ所の場所において診療時間を設けてはならない。医師住民医療供給確保するために必要場合には、支所診療時間)の許可を与えることができる。

 

§7 契約

 職務上の要件が守られるかどうかを審査可能にするために、医師医療業務に関するすべての契約を、その締結前に医師提示しなければならない。

 

§8 診療記録

(1) 診療記録医師備忘である。医師所見ならびに治療方法について充分記録を作らなければならない。

(2) 診療記録診療終了後の少なくとも10年間保存しなければならない。医学経験からみて望ましいときは、それ以上期間保存することが必要である。

(3) 診療記録剖検記録、X線写真、その他の検査所見発表は、§2原則によって許されている場合においても、通例報告作成または鑑定関係したときに限定すべきである。

(4) 医師はその診療記録検査所見が、診療を止めたあと管理に引継がれるように配慮しなければならない。

 

§9 鑑定および証明交付

 医師としての鑑定意見)および証明交付する場合には、医師必要注意を払い、良心に従って自分医師としての確信表明しなければならない。文書目的およびその受取人明記されなければならない。医師交付義務づけられている、または交付を引受けた鑑定証明は、適当期間内に交付されなければならない。

 

§10 医 師による教育試験

 保健衛生領域の人を教育または試験する医師は、このことを医師通知しなければならない。

 

§11 医師報酬

(1) 医師報酬請求適切でなければならない。算定に当っては料金規則根拠となる。そのさい医師自分行為難易範囲、支払い義務経済状態地域事情考慮しなければならない。

その場合医師不当方法によって通常の額より低くしてはならない。

訳者注:この条文は主として私費診療(その多くは民間医療保険加入している)の場合対象にしている。公的医療保険場合医師料金規則に基づいて行われるので、この条文直接関係はない。私費診療報酬額は、通常公的医療保険料金2.3(1970年頃は3.5倍であった)というように、医師料金規則基準にしている。】

(2) 医師親戚同僚同僚家族および資力のないものに対して報酬免除することができる。

(3) 医師報酬請求通常少なくとも四半ごとに行うべきで、支払い義務要望のあるときは分割払いにする。そのさい医師守秘規定注意しなければならない。

(4) 医師裁判依頼、または医師承諾があった場合にのみ、他の医師報酬請求妥当について専門意見を述べてよい。

 

§12 同僚間の関係

(1) 医師同僚に対して、思慮深い態度によって尊敬の念を示さなければならない。他の医師人格治療職業上の知識または能力について軽蔑した言葉を述べること、同僚をその地位診療活動から締め出そうとする試みは、医師としての品位の許さぬところである。

(2) 患者診療のために他の医師を呼んだ医師は、その医師が支払いを請求した場合適切な支払いをする義務がある。

(3) 患者および医師でないものがいるところでは、医療行為に対する異論教訓的なことを述べるのは控えるべきである。このことは上下関係にある医師たち、および病院勤務場合にも適用される。

(4) ある医師にかかっている労働能力のない患者を、他の医師労働能力について再検査することは、主治了解を得たときにのみ可能である。社会保障、または公的医療業務一環として嘱託医療業務規定があるときは、これに該当しない。

 

§13 他の医師患者治療

(1) 医師はその診療時間内に訪れた患者をすべて診療することができる。医師患者に呼ばれ、この患者がすでに他の医師治療を受けていることを知ったとき、あるいは周囲事情からそれが推測されるときは、患者またはその家族がはじめに担当していた医師治療を引続いて受けることを拒否したことを確認した後において、自分治療することを引受けるべきである。この医師は、自分の前に担当していた医師に、このことを患者またはその家族から伝えるようにさせなければならない。

(2) すでにかかっている医師が間に合わない状況にある患者のところに救急呼出された医師は、救急処置の終った後、もとの医師可及的速やかに報告するとともに、もとの医師にその後の治療を任せなければならない。

(3) 病院での治療が終った患者は、入院前の主治にもどされなければならない。外来処置観察に再び呼出す時には、患者治療している医師同意必要である。

(4) 医師は他の医師から頼まれた援助を、止むを得ない理由がない限り断ってはならない。

(5) 治療に当っている医師は、他の医師を呼んでほしい、または他の医師に送ってもらいたいという患者または家族希望を、原則として拒むべきでない。医師は他の医師から送られた患者について一応処置終了した場合患者が引続いて治療を受ける必要があるときには、患者をはじめの医師に戻さなければならない。

(6) 対診場合関係した医師たちは患者家族のいる前で相談してはならない。医師たちは、その中の誰が対診結果を伝えるかについて、意見一致させなければならない。

 

§14 代診医と助手

(1) 医師自分診療を自ら行わなければならない。

(2) 医師たちは基本的に、相互代理をすることを心掛けていなければならない。委託された患者は、代理が終ったら戻されなければならない。

(3) 代理必要とする事情カレンダで3ヵ月を超える場合には、代診医が診療従事することを医師に届け出なければならない。

(4) 代理依頼しようとする医師は、代診医が規則の定めた代理に関する条件を満たしていることを確認しなければならない。

(5) 医業を行う資格停止した医師診療は、医師審査を受けた時に限り、他の医師によって代行できる。

(6) 死亡した医師診療は、亡人または扶養を受ける権利のある親族のために、通常カレンダ四半のあと3ヵ月の期間まで、他の医師によって継続することができる。

(7) 医師助手として従事するには、診療所有者による診療指導不可である。これは契約書式に従って医師に届け出なければならない。

(8) 1年の間に計3ヵ月以上、ある医師開業代理または助手として従事した医師は、前者同意する場合にのみ、前記業務終了後1年以内に同じ診療地域開業することができる。この同意は、前記診療所有者の権利が侵されると考えられないとき、あるいは住民医療供給必要である場合には、医師宣言をもって代えることができる。

 

§15 工場および企業に属する医師業務

 工場および企業に属する医師は、それらの業務領域内に止まらなければならない。同様のことが保健衛生従事する医師にも適用される。

 

§16 療養および温泉地の医師

 原文全文削除

 

§17 有償による紹介禁止

 医師患者紹介によって報酬その他の便宜約束したり、請求したり、受け取ったりしてはならない。

 

§18 共同診療

 共同診療診療場所診断治療設備共同使用のために医師提携を結んだときは、医師に届け出なければならない。

 いかなる共同診療場合も、医師選択する自由は守られなければならない。

 

§19 医師救急活動

(1) 開業参加できない重要理由がない限り、救急活動参加する義務がある。救急活動編成実施についての詳細ならびに例外事項医師の定めた指針準拠する。

(2) 救急活動編成は、診療担当している患者に対する、その病状に応じたケアーを心掛けるという義務から、医師開放するものではない。

 

§20 宣伝推薦

(1) いかなる宣伝推薦医師には禁じられている。とくに次のことは自分品位にかかわるものである

 a) 感謝を公に述べたり、推薦公表することを行わせたり、許したりすること。

 b) 薬剤治療言葉や音、文字や図を用いて公表することを、自分診療宣伝につながるような扱い方で行うこと。

(2) 医師にはあらゆる間接宣伝禁止されており、この中にはトリウム研究所、病院、その他の企業医師名前を用いて、または医師名前暗示する形で治療治療または治療効果宣伝させることも含まれる。医師が自ら関係しないのにかかる宣伝がなされるときには、この職業規則許可されていない方法宣伝を行わないように関係企業に働きかけることが、医師には義務づけられている。

 トリウム研究所または病院が単にそれを担当するという形で、主たる適応範囲併記して開設者としての医師部長医の指名、および医師という肩書広告掲示することは、間接宣伝とはみなされない。医師宣伝禁止に対する逃げ道として、トリウム研究所、または病院名称自分業務のために利用するという事情明白なときには、上記例外該当しない。これは(1) 1項の最初文章に示された宣伝禁止相当する。

(3) 医師記事および図入り記事が、自分業務宣伝を帯びた性格をもって作られたり、自分名前宛名入りで公表されることを許してはならない。

(4) 医師出版において、責任自覚した客観義務づけられている。

 

§21 医師および非医師

(1) 医師医師でないもの、およびその職業上の補助でないものと一緒に、診察を行ったり治療をしてはならない。医師はこのような人たちを見物として医師仕事の場に立入らせてはならない。医療職の教育を受けているもの、および患者関係のように医療基本的に結びついているものは、これに該当しない。

(2) 医師患者治療効果をもたらす目的で、非医師協力医療技術慣例により必要と考えられ、医師と非医師責任範囲明確分離しているときには、(1)最初文章意味する協力禁止には該当しない。

(3) 医師医師でないものに代診をさせてはならないし、自分の名のもとに患者治療検査をさせてはならない。

 

§22 薬剤および補助器具処方推薦

(1) 薬剤または補助器具処方することによって、製造者または販売者から謝礼またはその他の経済便宜を求めたり、受けたりすることは医師に禁じられている。

(2) 医師医療商品見本他人有償で渡してはならない。

(3) 医師自分便宜のために、処方した物と異なる物を、処方した物であるかのようにして供与させてはならない。医師自分処方不正に取扱われることのないようにしなければならない。

(4) 医師患者に、しかるべき理由なくして、特定薬局または商店指示してはならないし、また薬剤仮名一般には分らない記号処方することを、薬局商店協定してはならない。

(5) 医師詐欺療法との闘いに協力しなければならない。

(6) 製薬工業医師として科学研究従事するものは、薬剤効果使用法について、医師としての専門インフォーメーションを与えることだけに限定すべきである。この種の医師薬局販売人または他の非医師の下で、注文を取る業務に励んではならない。

 

§23 薬剤および補助器具鑑定

(1) 医師薬剤補助器具衛生用品または同様品物について宣伝講演をしたり、素人向けの宣伝利用されそうな鑑定証明一般の前に出してはならない。医師鑑定証明をこのように利用してはならない旨、受取人に対してはっきりと禁止しなければならない。

(2) 医師医師としての職業上の肩書を付した自分名前を、営業目的不正に、例えば会社タイトル、あるいは品物表示に貸すことは禁じられている。

 

§24 広告名簿

(1) 開業または認可についての日刊新聞広告は、診療場所の他は医師看板に認められた事項だけを含み、開業または保険診療採用後の3ヵ月以内に、同じ新聞に3回だけ広告することができる。開業または認可について、それ以上のことを広告するのは禁止されている。

(2) その他として不在病気診療移転診療時間または電話番号変更場合に、日刊新聞に限って広告を出すことが許される。このような広告最高2回まで許可される。

(3) 新聞広告形式内容は、その地方慣習に従わなければならない。

(4) 医師官庁名簿以外には、宣伝性格を有する特殊名簿名前掲載させてはならない。

 

§25 診療看板

(1) 医師診療看板氏名医師としての肩書、または専門名称表示しなければならない。

 看板医学学位医師肩書診療時間自宅および電話番号、ならびに保険認可掲載してよい。他のアカデミック称号は、学部表示されたものに限る。

(2) 産科を行う医師は、診療看板に「産科」を追加してよい。

(3) 申請し、医師承認を得れば、次の事項診療看板に加えることができる。

 a) 労働医学

b) 温泉療法医師または療養医師

c) ホメオパティー

d) 自然療法

e) 精神療法

f) スポーツ医学

g) 音声言語障害

h) 熱帯

 上記標榜は2つまで併記してよい。

(4) 申請にさいしては、職業規則に付した指針条件証明しなければならない。特別例外場合には標榜を1つ追加できるが、それは職業規則に付した指針規定がその条件を示している場合のときである。

(5) 血清学的血液検査国家認定」を付記することは、国家認定を受けている医師場合可能である。

(6) その他の付記禁止されている。

 

§26 看板設置

(1) 診療看板は、医師診療住民に伝えるものでなければならない。それは押しつけがましい体裁設置されてはならないし、通常寸法(約35×50p)を超えてはならない。

(2) 特別事情がある場合、例えば玄関が奥深いときには、医師は更に1枚の看板設置することを許可する。

(3) 診療移転のさいは、その旨を記した看板半年間元の家屋設置することができる。

(4) 医師自宅につけるものは、通常住宅表札相当するものでなければならない。

 

§27 便箋処方およびスタンプ記載

 便箋処方およびスタンプ記載は§25の規定に準ずる。病院勤務医師勤務名称便箋処方スタンプおよび私的請求に用いて差支えない。

(岡嶋道夫 訳)

タイトルに


 

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訳者解説


ドイツの医師のための職業規則は、医師職業上守るべき義務行動などについて規定したものであるが、時代変化に伴う要求に応じて、その内容はたえず改定されてきた。見方を変えれば、職業規則はそれぞれの時代反映していることになる。その意味で、今から30年も前になる1970年の版をここに紹介することにしたが、現在のものと比較すると変化の大きさに気づかれると思う。それは長年にわたる英知の積み重ねによって築かれたものである。

残念ながらわが国にはこの種の規則はなく、医師のあるべき姿を論じても抽象に終わってしまう。また、わが国では、倫理医師自発行動目標を示すもので、強制されるような性質のものではない、という考え方が根本存在するように感じられる。

ひるがえってドイツ(ヨーロッパの他の国も同様と思われるが)をみると、この職業規則などに書かれているようなことは義務であり、医師はこれを遵守しなければならない。もし、これらの義務を怠れば、医師懲戒処分医師職業裁判での審理に持ち込まれることになる。つまり、医師全員倫理医師であることが義務づけられていることになる。

残念ながら、わが国ではこの方面情報が伝わってきていないので、職業規則翻訳を作ることにした。それによって私たちの認識前進がみられれば幸いである。高度発達した現在のドイツの職業規則重要であるが、1970年という初期規則理解することから始めることも、このような規則を考えたことのない私たちにとっては役立つのではないかと思考する。

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