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「生涯研修の罰則付き義務化」に関連する資料

ドイツの医師には生涯研修が医師職業規則によって義務付けられていたが、20046月から罰則付きの義務化に改められました。

そこで義務化と罰則に関連する以下のような資料を紹介することにしました。

M422 本資料 生涯研修の罰則付き義務化と実施状況についての概説

D133     法律(生涯研修の義務と罰則を規定した公的医療保険の法律の条文)

D134     生涯研修の実施と評価を規定した州医師会の規約

 

 なお、以前に数編の生涯研修を扱ったファイル(D109M404M418P501T605)を載せています。その中には現状と合わなくなっているものもありますが、時代の流れを知るということでは意味があるかもしれません。

編集と翻訳 岡嶋道夫

 

M422

ドイツの医師生涯研修−2004年から罰則付き義務化

 

要約

 

ドイツでは20047月から医師の生涯研修が義務化され、それを果たさないと制裁を伴うことになった。

これにより、医師は生涯研修を5年間に最低250点(単位)取得しなければならなくなる。1点は講義1時間に相当する内容であるが、生涯研修にはいろいろな種類の研修が用意されている。250点を取得すると州医師会から「生涯研修修了証書」が交付される。これを達成しないと、6年目の第一四半期から保険診療報酬は10%カットされる。さらに6年を経過してもこの条件を満たしていないとカットは25%に上昇する。7年経過しても条件が満たされないと、保険医協会は開業認可取消の手続を行うことになる。

病院などの勤務医や開業医に雇われている医師が卒後研修の義務を果たさないと、病院や雇い主の医師に対して診療報酬の削減が行われる。

 

生涯研修の種類と認定及び修了証書

 

このような重大な任務を持つ生涯研修であるので、生涯研修の方法と種類、実施要領、研修の証明、修了証書の交付などを定めた「生涯研修と生涯研修修了証書の規約」(D134に基づいて州医師会は生涯研修を実施する。

この規約では、生涯研修の種類を「カテゴリーA:講義と討論」から自己学習も含めて「カテゴリーH」に至るまで8種類に分類し、それぞれのカテゴリーに点数が示されている。

専門文献や視聴覚教材のようなメディアで勉強する自己学習も認められているが、これには5年間に50点までという上限がある。その他のカテゴリーについては、上限を設けるかどうかについて議論があったが、一応上限は設けないことになった。

生涯研修のどのプログラムに参加するかは各医師が自由に選択できる。自分の専門領域の研修をどれだけ受けなければならないという制約はない。受身の受講でなく、自らも積極的に参加する形式の研修には加算点がつく形になっている。

生涯研修修了証書を取得するためには、医師会が認定した生涯研修でなければならない。それぞれの州医師会が企画する生涯研修は相互に認定することになっている。

 

生涯研修を義務化するための法制度

 

ドイツの医療は主として州の管轄となっている。州は州の医療職法により医師の監督権を医師の自治組織である州医師会に委任している。これにより州医師会は州医療職法の規定に基づいて「医師職業規則」を公布し、医師の監督という行政行為を行っている。   

今までは医師職業規則によって生涯研修が義務づけられていたが、罰則はなく、研修の内容や時間数などは具体的に示されていなかった。

2004年からスタートした生涯研修の義務と罰則は、連邦の法律である公的医療保険法(GKV-Modernisierungsgesetz、公的医療保険近代化法)の中に§95dとして新たに書き加えられて明文化された。その条文の訳はD133に示した。

病院勤務の医師も同様に5年という期限のついた生涯研修義務の支配下に入るが、この場合は上述の§95dではなく、公的医療保険近代化法の中の「病院における質保証」を規定した§137(1)Nr.2D133)が適用される。しかし、この規定は大枠を示しただけのものであって、その具体的な細部については後日決定されることになっている。

生涯研修の場合の制裁は、連邦医師法で定められた医師免許に停止や剥奪という直接の制裁を加える方式ではなく、公的医療保険の法律の枠内で保険医として開業できなくするという形の制裁となっている。

この制度の特色は、立法者が生涯研修の証明の内容整備と実施を医師の手に委ねたことである。したがって、州医師会が生涯研修に対して責任を持ち、生涯研修のプログラムを作成、実施、そして規定通り修了したことを確認して「生涯研修修了証書」を交付する。医師がこの修了証書を州保険医協会に提出できないと、州保険医協会が開業認可委員会Zulassungsausschussに対して開業認可取消の申請をすることになる。

ちなみに、公的医療保険近代化法の規定によると、開業認可委員会は、保険医協会と疾病金庫からの同数の委員で構成され、委員長は交代制、決定は多数決であるが、投票同数のときには提案は否決の扱いとなる。そして経費は両者が負担するが、委員は一般の委員会と同様に無報酬である。ドイツでは開業医の定員制が敷かれていて、それぞれの行政地区ごとに住民構成を基礎にして家庭医と各種専門医の定員が定められている。開業するときは開業認可委員会の認可によって契約医としての資格を得なければならない。この委員会は、専門医療と専門医の地域的なニーズも考え、必要な場合は定員を超えた開業認可を認めることもできる。

 

生涯研修の罰則付き義務化に至るまで

 

ドイツでは医師の生涯研修は古くから医師職業規則で義務づけられていたが、罰則はなかった。しかし、医療の質の向上が求められる現在の趨勢のなかで、生涯研修を徹底させるために、20046月から上記のような罰則付きの生涯研修が義務づけられることになった。

この制度を実現させるために準備が行われてきた。はじめに連邦医師会が生涯研修規則のモデルを作成し、各州医師会が2001年から3年計画で試行を行い、その経験を持ち寄って検討することにより今回の制度が出来上がった。試行の3年間は義務づけられていなかったが、規定どおりに生涯研修を行った医師には生涯研修修了証書を交付している。

 

綿密な準備

 

連邦医師会は、上述の「生涯研修と生涯研修修了証書の規約(原型)D134)を作成するにあたり、生涯研修の教育理念、研修の内容と質、実施に当っての留意事項を詳細に解説した「医師の生涯研修勧告」を2003年に作成している。この勧告は翻訳と転載許可が得られたらこのホームページに載せたいと思っている。

 

その他

 

自己学習は5年間に50点までであるが、これは証明がなくても算入される。

5年間の生涯研修によって生涯研修修了証書を受け取ると、つぎの5年間の生涯研修が同じ条件で始まる。もし生涯研修が5年で修了しないで6年目に持ち越したときは、この不足分を取り返してからでないと、次の5年間の研修には入れない。

次の5年間の研修を、前の5年間に買い溜めしておくというようなことはできない。

2009630(1回の生涯研修修了証書の期限)以前にリタイアする医師は、ここに述べた制裁は及ばない。しかし、医師職業規則と医療職法で生涯研修は義務づけられている。

5年の期間中に医師の業務を行わなかった場合は、その期間だけ期限は延長される。例えば、育児期間、長期の病気、失業などの場合にこれが認められる。

外国での生涯研修プログラムは、それがcontinuing medical educationとして認められるものであれば、ドイツでも承認される。

 

コメント

 

ドイツでは生涯研修の義務を怠った場合の制裁は、医師免許へ制限を加えるのではなく、保険診療の報酬のカットと保険医資格の剥奪という方式を採用した。したがって処罰は医師会、保険医協会、疾病金庫のレベルで行われる形になるが、上記のように連邦の法律によって制裁の権限がこれらの組織に与えられているから可能になると言えるのではないだろうか。

以上

 

生涯研修の実例

 

ドイツ医師会が開始した医師会雑誌を利用しての自己学習

 

ドイツ連邦医師会は、メディアによる自己学習の一助として、医師会雑誌の中で次のような研修を20049月からスタートさせた。

 ドイツ医師会雑誌に特定のテーマの講義を年12回連載する。それを読んで、そこに示された10問のマルチプルチョイスの回答を6週間以内にe-mailで医師会に送る。この期限を過ぎるとe-mailで成績が本人に伝えられる。7問以上正解すると合格で2点が貰える。10問正解すると3点が貰える。6問以下の正解はは0点。その成績証明はPDFファイルに掲載され、「生涯研修修了証書」の点数として使うことができる。

 この連載は20049月から行われているが、毎回英文のタイトルとSummaryがついている。ドイツ語が読めなくても、画像や表などからおよその見当はつけられるかもしれない。これらのサイトは以下の通りであるが、htmlファイルであるので、図表が掲載されているpdfファイルには画面右上に表示されたPDF-Versionをクリックして下さい。テーマによっては文献も掲載されている。

 

20049月: Deutsches Ärzteblatt: 101(37): A2457-2466, 2004

Differential diagnostics and multimodal therapy of hyperkinetic disorders.

http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp?id=42707

 

200410月: Deutsches Ärzteblatt: 101(41): A2748-2752, 2004

Leading symptom dysphagia.

http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp?id=43719

 

200411月: Deutsches Ärzteblatt: 101(45): A3026-3035, 2004

Imaging diagnosis in the case of diagnostic confirmation of headache.

http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp?id=44122

 

200412月: Deutsches Ärzteblatt: 101(49): A3337-3342, 2004

Headache and eyes.

http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp?id=44606

 

20051月: Deutsches Ärzteblatt: 102(1/2): A50-58, 2005

Anorexia and bulimia nervosa in childhood and adolescence.

http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp?id=44902

 

20052月: Deutsches Ärzteblatt: 102(5): A50-58, 2005

Physician's duty to maintain confidentiality

http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp?id=45243

 

20053月: Deutsches Ärzteblatt: 102(9): A50-58, 2005

Chronic heart failure

http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp?id=45685

 

 

州医師会が企画する生涯研修のプログラムの例

 

 州医師会はそれぞれの州医師会雑誌の中で生涯研修のプログラムを紹介してきた。残念ながら、ドイツの州医師会雑誌を購入している図書館は日本には存在しないように思われる。筆者は個人的にヴェストファーレン−リッペ医師会の雑誌を購読しているので、生涯研修の充実振りをうかがい知ることができる。

最近は、どの州医師会も生涯研修プログラムをホームページで載せているので、われわれも容易にアクセスできるようになった。しかしながら、そのスタイルは州医師会ごとに異なっているので、探し出すのに多少の習熟を要する。そこで参考までに、人口約1千万人のバーデン・ヴュルテンブルク州の州医師会が作成している生涯研修のサイトを紹介することにしよう。

http://www.aerztekammer-bw.de/25/01fortbildungskalender/index.html

ここでは左側の窓で見たい「月」を、右側の窓で「専門」を選択して[Starten]をクリックする。例えば、2005327日の時点でクリックすると、

20054月−全科Fachübergreifend を選択すると1256件の研修が出てくる。

20054月−小児科Kinderheilkunde を選択すると61件の研修が出てくる。

どれかを選択してクリックすると、テーマ、点数、日時場所、責任者などの詳細を見ることができる。

以上